TERAKOYA Programレポート

心の解放を促すフィンガーアート出前授業レポート 

東京都中央区立阪本小学校(2023年2月21日)

授業開催の経緯 ー 効率性や合理性を優先する傾向にある現代の子どもたち

TERAKOYA Programでは各学校現場の先生方が感じる課題をヒアリングして、その課題に合わせたプロによるオーダーメイドの出前授業を届けています。
日々子どもたちと向かい合う先生だからこそ、感じる課題には子どもたちと一日一日を大切に積み重ねてきている先生方の想いを垣間見ることができます。今回事前ヒアリングで見えてきた課題のなかで、効率や合理性などを優先する現代の子どもたちの傾向に着目し、「心」を解放して「感性」を育てる授業を行うこととしました。

可能性を伸ばす力はいつも子どもたち自身にあると私たちは考えます。自分の感情を感じ取り、表現することは可能性の芽を発芽させる力があります。それをサポートする私たち大人もまた、無意識のバイアスを外し、自由に感じることをサポートできる大人でありたいと考えています。

そんなTERAKOYA Programの考えにご賛同いただき、今回の授業コーチには自身も三児の母でもあるアーティストの絵子猫さんをお迎えしました。ディズニーやポケモン、サンリオなどのコラボでも話題になり、国内外でも幅広く注目される絵子猫さんですが、「もっとアートで社会貢献を」を目指し、病院に絵を寄贈されたり、学校や子供たちへのワークショップ活動などを精力的に取り組まれています。

絵子猫コーチと共に、絵を描くことや表現自体が苦手だとしても、心の解放に繋がるようなアートの時間を届けようと授業の構想を始めました。

心を解放するフィンガーアート

 絵子猫コーチと授業を構成する中で、”頭で考えて動く” “効率性” から少し離れるために「心の解放」に着目し、幼児教育や心理療法でもあるアートセラピーなどでもよく取り入れられるフィンガーペイントを授業の中心に全体をデザインしました。
フィンガーペイントは、海外でも1940年代から児童心理学者を中心に理学療法の「アートセラピー」として導入され、心と芸術をテーマにした心理療法として発展し今に至ります。私たちが取り組むのは病理学の枠組みから外れたエンパワーメント型のアートセラピーです。

「何かを描く」だとアートでの表現に「上手い、下手」で括られがちで、苦手意識がある人も出てきますが、フィンガーペイントは手指で直接絵の具を伸ばして表現するため、純粋に表現や手を動かすことに集中することができます。ぬるぬるとした絵の具の感触や温度、色を感じていく中で「今、自分が感じていること」や心の深層にアプローチし、心を解放していきます。

子どもたちは5年生、6年生の共同開催で行いました。グループワークのために用意された厚くて立派な大きな紙を前に、初めは緊張した面持ちの子どもたちでしたが、絵子猫コーチの“お話しを聞きながら観る「ライブペイント」がはじまると、コーチの仕事や子ども時代の話に子どもたちの質問が交わりながら、和やかな雰囲気になっていきました。

時間の経過と共に輝きが増す子どもの表情

子どもたちは、たくさんの選択肢がある紙の中から自分が好きな色、触り心地が異なる種類の紙を4種類、全て自分の意志で選択しました。「選ぶ」ということはとても自由なようですが、自分の中にある「好き」や「気分」を感じることで初めて行えます。だからこそ、決まりを設けず「自由に自分で選びとる」ということを重視しました。

手のひらいっぱいで紙の凹凸や感触を感じながら、直感で決める子や、どれが良いのかじっくり悩む子、売り切れた種類の紙を譲る子など、紙を選ぶというひとつの選択でもそれぞれ違いがあります。一方、ゆびえのぐの色選びは視覚的な効果もあるのか、より直感的に「僕は赤と黄色ください!」と迷いなく選んでいる子が多かったのがまた印象的でした。

 「さぁ、はじめよう!どんどん自由に描き始めて!」

というコーチの声で、スタートした子どもたちですが、はじめは一本の指で恐る恐る線を描く子、子どもが持参した小道具(スプーンやフォーク、竹串など)でちょんちょんしたりと少しづつ感触を確かめていた子どもたちも、5分もしないうちにたっぷりとゆびえのぐを手に取り、思い思いに表現をし始めました。

時間の経過と共に子どもたちの表情は徐々に明るく変化し、より大胆に描くこと、無心で自由に表現に没頭することを楽しんでいきました。


普段は学校に行くのはあまり好きではないと言っていた子が、この日の授業を楽しみに登校し、手を挙げ質問し、積極的に参加することができたと言ってくれました。主体的な学びや、可能性の意味を教えてくれるのはいつだって子どもたち自身です。

3〜4人で1メートルを超える大きな紙を囲んでできた作品は、一緒にひとつの作品を作るグループ、それぞれを個を尊重した作風などそれぞれのグループの個性がありグループワークならではの他者理解を自然な形で深めていくことができました。

みんなで描いたグループ作品の、自分が気に入った箇所を転写して思い思いの1点を作り出しました。細かいテーマや決まりをあえて設けず「今」と「自由」を意識して授業を展開したことで、子どもの心と感情の解放を促すことができました。例えば、ポコポコとした触り心地の「市松」という紙で作品を転写すると、てんてんと絵の具がつく事に気がついた子は、その特性を利用してゆびえのぐを擦るように紙に伸ばし、色が掠れる様子を表現し始めました。

子どもたちのやってみたことによる気づきからできる発想力、作品の素晴らしさ、そして自由さにはいつも驚かされます。子どもたちの可能性は、大人が思っている以上です。

授業を受けた生徒の感想

「楽しかったので、またきて欲しい」

「中学校でもやって欲しい」

「普段こんなことしたら怒られるのに、やっていいなんて嬉しい」

非認知能力の重要性 ー学校現場の現場

  遊びや、楽しみ、周囲との関わりの中で違いを知り様々な感情や感受性を育てていくことで、非認知能力は伸びていきます。きっかけを通して植った可能性のタネが芽を出し、根を伸ばしていくためには、可能性を信じて伸ばす力が必要です。そのサポートを行うのが私たち大人の役目です。そしてそれには、私たち大人のフラットでバイアスの無い瞳と心が必要であり重要なのです。

 日々の学校教育では、クリアするべき学習指導要領があり、先生たちが毎日奮闘しながら子どもたちと向き合ってくれています。その中では授業を時間通りに進行し、子どもたちが如何にスムーズに学ぶことができるかという効率性も大切な要素になってきます。

そして何より学校現場は本当に忙しく、先生は座っている暇すらありません。だからこそ、企業と個人、行政が力を合わせて、先生達が伝えたくても伝えられない、子どもにとって大事なことをサポートしていくことが大切になってくるのです。プロと子どもたちを繋ぎ、きっかけになれるような機会を届け、官公民が共に連携して社会全体で次世代を育てるしくみを実現することが私たちTERAKOYA Programのミッションです。

異業種3社企業共同で教育を支える 一新しい取り組み

 今回の授業は開催校の中央区立阪本小学校がある「東京都中央区」に本社を構える異業種3社が授業を提供しています。偶然にも共に1946年に創業した老舗企業2社が子どもたちが授業を受けるために必要な材料を豊富に提供し、屋台骨を支えてくれました。

阪本小学校に程近い、中央区日本橋に本社を構えるぺんてる株式会社。誰もが一度は“あのクレヨン”を使ったことがあるのではないでしょうか。ご提供いただいたのは授業全体を彩る「ゆびえのぐ」。虹色カラーのカラフルな8色で、高い安全性を誇るため直接絵の具に触れるフィンガーペイントでも安心して使用することができます。マヨネーズの容器に入ったようなカラフルなゆびえのぐを絞り出して使うということでも好奇心をそそり、子どもたちの自由な表現を助けます。

「子どもたちが自由に表現できるよう、たっぷり使ってください」と授業にご参加くださったぺんてるの西条さん、企画を進めていただいた藤村さんお二人とも、子供たちの目線に合わせ膝をつき、ペースを合わせ表現に寄り添う姿勢に、メーカーとしての姿勢を感じることができ非常に感銘を受けました。

 また、子どもたちの表現を受け止める大きな要素である、紙を提供いただいたのは、中央区新川に本社を構える紙の総合商社の平和紙業株式会社。「子どもたちに紙の温かさを知ってもらいたい」と多種多様な触り心地の紙をご用意いただきました。紙の世界は奥深く、私たち大人でもその種類の多さに驚きました。紙のプロに選んでいただいた様々な触り心地の紙を表現者である子どもたちも手のひらいっぱいで感触の違いを確かめ、拘りを持ちながら選んだ紙で出来上がった作品はそれぞれの紙の特徴の影響を大きく感じる作品に仕上がりました。デジタル化が進む今だからこそ、紙に触れる時間はとても贅沢で貴重なものになってきていると感じました。

 この授業は最後に、3月15日にせっかく作った作品は、コンテストをして各スポンサー企業賞と絵子猫コーチ賞を発表すると共に、子ども達の一点づつカメラに収め、デジタルに取り込み、絵子猫コーチに一つの作品にしていただき、阪本小学校の子ども達とのコラボ作品が完成して終了となります。

次回、賞の様子についてもレポートをしたいと思います。

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