TERAKOYA Programレポート

「アンコンシャスバイアスを知る」出前授業レポート 

東京都中央区立阪本小学校(2023年3月13日)

「キャリアの授業」開催の経緯

「TERAKOYA Program」では各学校現場の先生方が感じる課題をヒアリングして、その課題に合わせたプロによるオーダーメイドの出前授業を届けています。

今回事前ヒアリングで見えてきた課題は、心や感情よりも「コスパ」や「タイパ」という言葉に代表される効率重視の時代背景と、勉強のよくできる子こそ物事の優劣を無意識に判断していることでした。この点に着目し、無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)を知る授業を行うこととしました。先生方が感じる課題は子どもたちと一日一日を大切に積み重ねてきているからこその想いを垣間見ることができます。

可能性を伸ばす力はいつも子どもたち自身にあると私たちは考えます。

大人になるにつれ、知恵と経験が増えることで、知らず知らずにバイアスは増えていきます。自分自身や周りの人の意見や感情を、バイアスを外して感じ取ることで多様性を知り、さらにはそれが自分らしさを知るヒントとなるような授業になるよう構想を練り始めました。

アンコンシャスバイアスを知ることの重要性は、世界中で高まっている

「アンコンシャスバイアス」が注目され始めたのは2010年代に入った頃で、GoogleやFacebookが従業員から人種や性別の偏りについて指摘されたことがひとつのきっかけと言われています。Googleはこれを受け、2013年よりアンコンシャスバイアスの教育研修を始めましたが、米国企業でその重要性が認識されるまでには長い時間を要しました。日本においては更に遅れをとり、高い認識でアンコンシャスバイアスについての教育に取り組んでいる企業が多いとはまだまだ言えない状況ですが、働き方にも多様性が進み、今までとは違う労働力の人構成の変化も後押しとなり、組織の中でのアンコンシャスバイアスと向き合う必要性があるのではないでしょうか。

このような視点で考えると、次世代を担う子どもたちこそアンコンシャスバイアスを知り、多様性を受け入れることは将来の日本にとっても重要な取り組みだと言えます。

授業のコーチには元Google社の人事統括責任者をお迎え

多様性やアンコンシャスバイアスについて焦点を当て、授業のコーチには河村大督さんをお迎えしました。河村さんはバイアスの教育活動が最も盛んだと言われるGoogleの元人事統括責任者で、海外留学やGoogleでの仕事を通じて、世界にはバックグランドの異なる人々がいて、それぞれの異なる考え方があるという事実を受け入れることができた時「みんな違って、みんないい」という考えに行き着いたそうです。そこで私たちは、子どもたちがアンコンシャスバイアスに気がつき、多様性を受け入れられた時、世界はどんな風に見えるのか、授業の中で子どもたちに感じてほしいという想いを形にする授業はどのようなものなのか?というところからコーチと一緒に授業を構築し始めました。

子どもたちは授業を通して自分を知り、他人の意見を受け入れらるようになっていく

TERAKOYA Programの授業はコーチが一方的に話す形ではなく、子どもたちとコーチがコミュニケーションを取る形で進みます。最初は、手を挙げたりコーチに当てられて発言することに躊躇する子がほとんどでしたが、TERAKOYA Programのルールで「否定しない」約束を最初に交わしていたため、「間違いはないんだ」と気がつき、だんだんと自ら手を挙げて自分の意見を発表できるようになっていきました。

コーチの自己紹介を終え、アンコンシャスバイアスを知るためのワークを2つ行いました。子どもたちはワークでも積極的に自らの意見を述べ、その後休憩中も「これってアンコンかな?」「私はこう思う」「それはアンコンだよ」と、身近なアンコンシャスバイアスについての意見を活発に交わしている様子でした。

そんな子どもたちの様子を見て、ワークの最後にコーチから「一つ意見が出たら、その後沢山出るようになったよね。仲間と協力することで、自分一人では考えられなかったアイデアが生まれたり、大きな成果につながったりするんだよ」という言葉が添えられ、一つ目のワークを終えました。

授業の最初に「アンコンシャスバイアスについて塾で習ったから知っている」と言っていた子がいましたが、塾では時事問題の一つとして習ったそうです。このワークを通して「言葉として知っている」から「具体的にこういうことだ」という落とし込みがされたのではないかと思います。私たちは子どもの学びを提供する中で、まずは言葉を知り、次に言葉の意味を理解し、最終的に自分の身の回りで起こっていることなんだと理解することが最も重要だと考えています。

時間の経過と共に積極的になっていく子どもたち

二つ目のワークでは、3つの質問に対する気持ちをそれぞれが付箋に書き出しました。質問は「今熱中していること・好きなこと」「将来なりたい自分や将来つきたい職業」「どんな中学生活を過ごしたいか」の3つ。「答えが“ない”というのも立派な答えだよ」というコーチの助言もあり、子どもたちが思い思いに答えを書いた付箋を黒板に全員分貼り付けました。カラフルな付箋に載った子どもたちの想いについてコーチが子どもたちの意見を聞いていきます。熱中していることの質問に対して「勉強・卓球・バレー・ピアノ」と書いている子が発表すると、コーチから「今〇〇さんがこれにハマってるって知ってた?」と聞かれ「卓球は知ってたけどバレーは知らなかった」と発言する子がいたり、なりたい職業の質問に対して「YouTuber!」と答えた子に対して子どもたちみんなが笑顔になったり、「学校では社会が嫌いだったけど塾に行って好きなったから僕は社会の先生になりたい」という発表に対して「おぉ〜〜」と歓声が上がったり、普段知らなかった友達の一面をそれぞれが受け入れている様子でした。

どんな中学生になりたいかの質問に対しては、「楽しい中学生活を送りたい」「勉強を楽しみたい」という意見や「優しい中学生になりたい」「目立たない普通の中学生になりたい」「お姉さんらしく過ごしたい」など、それぞれ型にはまった答えではなく、自由な意見が出ていたのが印象的でした。

最初は恐る恐る発言していた子どもたちが、二つ目のワークの時には躊躇することなく手を挙げ、積極的に生き生きと発言をしていました。また、お互いの意見に対して自分の思いを発言する子も出てくるようになっていました。

最後にコーチから授業の感想を聞くと、手を挙げる前に「楽しかった」と返ってくるほど子どもたちが積極的に意見を言えるようになり、授業を受ける姿勢まで変わったように見えました。

私たち大人が伝えたかったこと

授業の最後にコーチの河村さんから「将来みんなが働く時に、今日やったみたいにみんなの力を合わせれば解決できることがたくさんあります」「仕事をすることは困っている人を助けることです。みんなの力を合わせれば、たくさんの困っている人たちを助けることができるようになります」と伝えていました。

私たちは大人になるにつれ、知恵が付き、経験を重ね、バイアスが自然と増えていきます。例えば、子どもたちに仕事の話をする時に「その職業の給与がいくらか話すのは抵抗がある」と考える大人が多いように感じます。それは「仕事を選ぶ基準は給与であるべきではない」というバイアスがかかっているからではないでしょうか。私たちは日頃、キャリアのサポートをする仕事をしていますが、仕事内容は踏み込んで聞いても大丈夫なのに、給与額を聞くのはタブーという風潮が日本には確かに存在すると感じます。

日常生活の中に無数のアンコンシャスバイアスが存在し、自分自身も他人に対してもバイアスをかけてしまったりすることがあるということをまず理解する必要があります。そのうえで自分や他人がそれぞれに異なる意見を持っていることをプラスに捉え、協力することで大きな成果が残せるんだということを子どもたちに伝えられる大人が増えることで未来はもっと豊かになっていくのではないでしょうか。

編集後記

経済産業省は「ダイバーシティ経営の推進」を掲げており、人々の個性を活かし、多様性を受け入れることでより強固な組織作りにつながると言っています。日本は特に集団意識が強かったり、内・外を区別する文化的背景があるため、自分と違う属性にある人に対して寛容とは言い難い環境であると思います。社会が大きく変わり始めている今、まずは大人がその本質を理解し、アンコンシャスバイアスは自分にも存在しているという感覚を養うことが重要になっています。その土台を前提にこれからの教育現場では、人には多様性があることを知り、お互いを尊敬し合える関係を築きあげることが、しいては自分らしく生きることにつながるということを伝えていって欲しいと私たちは考えています。

いつか子どもたちから「それは思い込みだよ!アンコンシャスバイアスだね!」と指摘されることもそう遠くない、そして作っていかなければならない未来の姿ではないでしょうか。

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