東京都中央区立月島第一小学校(2023年3月14日)
みなさん、どのようなキャリア観をお持ちでしょうか。私たちTERAKOYA Programが学校へ授業
を届ける中で大切にしていることは、「キャリア」を中心として組み立てた授業を届けることです。
キャリア教育とは、仕事をする上で必要な能力や態度を育むこととし、社会にはどんな職業が
あって、そのどれを自分が選びとるかをイメージさせ、将来の見通しを持たせることが中心とされ
ています。(中央教育審議会:今後の区キャリア教育・職業教育の在り方について)
日本の子供の6人に1人は親の仕事をよく知らない
「将来の夢は?」と聞かれ、まだ小さな幼少期には“ヒーロー”や“アイドル”など職業に限らず夢を語りますが、小学校6年生になると答えには一気に”公務員” ”弁護士”などずらりと職業の名前が並び、大きく変化します。ところが、その職業のラインナップはデジタル化が急速に広まる以前の2000年からそれほど変わっていません。(*1 ) 要するに、変化する労働市場やその需要が子どもたちにきちんと伝わっていないということではないでしょうか。次世代を担う世代が、自分達の可能性とその価値を狭めるようなキャリア観をそのままにして良いはずがありません。(*1 経済産業省OECD「将来の夢:10代の若者のキャリアへの期待と仕事の未来」2020年1月調査より)
そこで卒業間近の月島第一小学校の6年生へ届ける授業のテーマは、「科目にとらわれない 生きたキャリア教育」とすることにしました。コロナ禍で学校参観を初め、宿泊行事も難しかった6年生に、親の参加行事が一気に減る中学進学前に子どもたちの活動の様子を観覧・参加いただける形で授業構成をしました。
現在、日本の子どもたちは親の仕事を知らないと言われています。「親の仕事を知っているか」という質問に対して、日本は世界的に見てもワースト2位という結果が出ています(調査PISAより)。多くの子どもたちが親の仕事のことは何となくは分かるけれど、よく知らないと言うのが現実だと、働く母である筆者の私自身もそう思います。子どもたちは将来に漠然とした不安を感じながら大人への道を歩いている場合も多くみられます。働くこと自体に不安や嫌だなという感情を持っている子もいます。もちろん働くことは大変なこともありますが、それ以上に素晴らしい経験ができるのではないでしょうか。多くの働く人たちは仕事にそれぞれ使命感や誇りをもって働いています。それを伝えるためにも親である保護者の職業にフォーカスした授業をつくろうと模索しました。
誇らしげに保護者の仕事について発表する子どもたち
アクティブな授業は子どもの主体性を引き出します。
当日は、総勢91名の6年生たちと体育館で体を動かしながら授業を行いました。
「担任の先生の子どもの頃の将来の夢当てクイズ」や「パパママインタビュー」「ジョブカルタ大会」と盛りだくさん。世の中に散りばめられたたくさんの「職」に対して、子どもたちにいかに興味をもってもらうかをテーマとしました。
「担任の先生の子どもの頃の将来の夢当てクイズ」では、当てはまると思う項目の札をもつスタッフの方へ移動して体を動かします。緊張が解けたところで「パパママインタビュー」へ入ると、子どもたちはしっかりと耳をかたむけます。TERAKOYA Programは、情報の受け手である子どもたちがいかに主体的に授業に取り組めるかを中心とした、相互的なアクティブラーニングで構成しています。一方的に大人が話して情報が流れ込んで来ても、受け取れる量には限りがあります。子どもたち自ら手を挙げ、主体的に授業に取り組むことで初めてテーマに対しての理解を深める事ができるのです。
5名の職業を隠した保護者に、子どもたちが質問をしながらその職業を当てていきますが「出張はありますか?」「英語は使いますか?」「資格は必要ですか?」など、なかなか鋭い質問が繰り広げられ91名の子どもたちの知恵を集結させて、保護者の返答から正解を導き出しました。
誰かのお父さん、お母さんであること以上に、目の前にいるプロの仕事に興味をもちながら質問を考えることは、新たな「職」を知るきっかけを広げていきます。
「子どもたちにはごまかしがききません。“本物”が好きだし、とても本質的なんです。」
6年生の担任の先生方の声です。その言葉通り、子どもたちは本物のプロの言葉を真剣に聞き、受け取っていました。
授業のハイライトには、「白熱!ジョブカルタ大会」と称して、宝島社に協賛いただき「日本の給料&職業図鑑」のイラストを使用した大きな職業カルタを製作し、クラス対抗戦を行いました。このカルタは、子どもたちが事前の宿題で聞いてきた保護者の職業を元につくられた月島第一小学校オリジナルのジョブカルタです。私たち大人も知らないワクワクするような仕事も多く、体育館という環境も手伝いかなり盛り上がりました。
カルタの数を競うこともそうですが、途中に挟んだ、子どもたち自身が聞いてきた保護者の仕事の内容ややりがいに関して、マイクを持って発表する姿はとても誇らしげでした。
カルタを取れた子も、そうで無い子も一緒になってカルタに書いてある職業の説明や、給与などを見ながら、子どもたち同士の議論も活発に行われていて、様々な職業に触れる機会となりました。
生きたキャリア教育の重要性
パパママインタビューでは鋭い質問に加え、上手にメモを取りながら真剣にその職業のプロの言葉を真剣に聞いていました。実際に働いている人から話を聞くということはとてもパワフルでインパクトがあることです。宿題で聞いてきた自分の親から聞く、仕事への熱意や働くことへの意味は、子どもたちにとってただそれだけで素晴らしい生きたキャリア教育の機会です。
世界ではキャリア教育は当たり前に専門の人材が行っていますが、日本ではほぼ全ての学校で、先生がキャリア教育やキャリアガイダンスを行っています。学校の先生は子どもたちの勉強や日々の生活の成長をサポートする教育のプロですが、「教育」の全てを先生に押し付けてしまうことは、教師の負担が大きすぎるだけでなく子どもたちの機会損失であるということも忘れてはならないと私は思います。これから世に出る子どもたちの漠然とした不安に寄り添うには、自らが学校という場所とは違う社会で働き、切磋琢磨してきた経験が必要不可欠なのではないでしょうか。
成績を評価して、「行きたい学校」「就職先」を指南、指導するだけがキャリア教育ではありません。社会とどう関わるのか、自分はどんな役割を担いたいのか、それを実現するには何をする事が必要なのかなど、より人生そのものを一緒に考えるきっかけを届けるぬくもりある実践的キャリア教育を、日本の子どもたちに届ける必要があるのだと思います。
子どもの数が少なくなり続けている日本において、できるだけ多くの子どもたちに、もっと当たり前にキャリア教育が届けられるよう、私たちTERAKOYA Programは働きかけていきたいと思います。